定期演奏会の紹介

第55回定期音楽会の紹介

 5月の音楽会

演奏日時 1990年5月23日(水)・24日(木)午後6時45分開演
演奏会場 森ノ宮ピロティホール
指   揮 守屋博之/本並美徳/山本恵造
ピ ア ノ 門万沙子/山下和子
三好良(ドラムス)/上里明(ベース)/門万沙子(シンセサイザー)
出   演 関西合唱団/「地球への帰還」を歌う合唱団/合唱団TERRA/レガーテ/フリーダム
ス タ ッ フ 一杉忠(舞台監督)

演 奏 曲  1部 コシシケレリ・アフリカ
平和の子守歌                (訳詩:H.Katw 曲:A.Kaug 編曲:K.Kiuchi)
キエフの鳥の歌               (ウクラィナ民謡 訳詩:木内宏治)

切手のないおくりもの            (詩・曲:財津和夫 編曲:中島良史)
ミッキーマウスマーチ             (詩・曲:Jimme Dodd 編曲:青島広志)
オオカミなんてこわくない
星に願いを
地球は回るよ                 (詩:山上路夫 曲:東海林修 編曲:青島広志)

合唱構成「はばたけ子どもたち」より   (詩:レガーテ 曲:本並美徳・原田義雄)

わたしを束ねないで             (詩:新川和江 曲:林光)
愛                        (詩:谷川俊太郎 曲:外山雄三)
星めぐりのうた                 (詩・曲:宮澤賢治)

いとし子よ                   (詩:山森香子 曲:原田義雄)
明日への出発                 (詩:山上路夫 曲:川口真)
この町で                    (詩・曲:ぐたにゆうじ)

        2部 独唱と混声合唱のための組曲
 
テ  ラ
「地球への帰還」         (詩:片岡輝 曲:池辺晋一郎曲)

 五月の記憶
 テラ悲歌
 九月の記憶
 さまよえる廃船
 十一月の記憶
 復活願望
 三月の記憶
 箱船古諏

チラシ(表)

ごあいさつ

プログラムより
 本日はお忙しい中、ようこそおいで下さいました。
 私たち関西合唱団への日頃の大きな御支援に、ここに厚くお礼申しあげます。
 歴史は80年代から90年代へと移り、21世紀を目前にして一層激しくゆれ動いています。この激動をつくり出しているのは、より良い生活・自由や民主主義を願う”最っとも人間的な要求”に根ざした行動に他なりません。こうした行動の中でも、「地球をまもろう」という声は、人間そのものの存在、いや全ての生命をもつ物体の存亡に関わる問題として、切実なものになっています。
 私たちは、”核兵器をなくそう””人間としての生きる権利をひろげよう””一人ひとりの生きる願いを大切にしよう”という様々な思いを”うたごえ”に託して歌い広げて来ました。
 地球や自然をどう考えていくのかが問われている今、片岡輝先生と池辺晋一郎先生が私たちに送って下さった合唱組曲「地球(テラ)への帰還」は、うたごえ運動の40年にわたる歴史にとって、今日の時代にどうしても歌わねばならない作品として大きな意味をもつに違いありません。
 両先生に心からのお礼を申しあげ、この作品にこめられた思いを皆さんに感じとって頂けるよう、私たちも今回の初演に全力をあげる決意です。
 皆さまの今後ともの大きな御支援をお願い申しあげ、ごあいさつにかえさせて頂きます。
1990年5月23日【関西合唱団団長 西恒人】

メッセージ

プログラムより
地球規模の”語り部”に
         
テ ラ 
 今回の新作《地球への帰還》の作曲者池辺晋一郎さんとは、ちょうど昨年のいまころ、ごいっしょに仕事をしていました。関西学生混声合唱連盟の委嘱によって、池澤夏樹作詩、池辺晋一郎作曲で混声合唱組曲《今はない木々の歌》が初演(6月5日)されたからです。私は、その作品のプロデューサーという役割で、こ両人と、何度か話し合いをいたしました。
 池辺さんは、いま人気ナンバーワンの作曲家ですし、私の最も敬愛している人。また池澤さんは、芥川賞をおとりになった直後で、これまた乗りに乗っていました。6つの大学の合唱団のジョイントに因んで、6群の混声合唱を、立体的に扱うという大変スケールの大きい作品が誕生し、フェスティバルホールの客席は、興奮の空気に包まれました。
 とりわけ私が忘れられないのは、初演の当日、あたかも中国の北京で天安門事件が起り、多数の学生がその犠牲者となって命を失いました。初演の指揮者田中信昭さんが、客席に向い「この作品の初演を、北京の学生たちに捧げたい」と述べますと、学生たちで埋められた客席から大きな拍手が湧き起こりました。すばらしい初演でした。
 《今はない木々の歌》は、昔、日本列島に木々が生い茂り、人間も動物も、木々とともに生活していた姿から歌い出され、時代とともに木々が伐り拓かれて、いまや”木々のない”時代になったことへの怒りと悲しみを訴える内容のもので、このことに対する強い共感が、初演を成功させたものと思います。
 いま、池辺さんの新作《地球への帰還》の初演を迎えて、私は、昨年と同じような興奮を覚えます。今年はまさに”地球環境年”で、全世界的に環境に対する認識が高まっているときに、かけがえのない美しい地球を守り続ける人間の使命を歌い上げた、この超大スケールの作品は、大きな反響を呼ぶことでしょう。池辺さん手書きのスコアを、いま手にしていますが、片岡輝さんの詩による全8篇の大作は、1曲1曲、私たちに強い訴えをしてきます。いまや池辺さんは、地球規模の”語り部”と呼んでもいいでしょう。
 それだけに初演の責務は大きいものがあります。関西合唱団のみなさん、是非とも立派な演奏をして下さい。また、そうなることを信じています。 
【関西合唱連盟会長 音楽評論家 日下部吉彦】

       
テ ラ
合唱組曲「地球への帰還」初演をプログラムの中心にすえた第55回定期演奏会の開催おめでとうこざいます。
 いま、新らたな90年代を迎え、世界は「壮大な民主化の時代に入った」といわれますが、この事は、私たち一人ひとりの生き方や私たちのすすめるうたこえ運動そのものが問われていると強く思うこの頃です。そして、私たちの未来にとって最も不安な事といえば、地球の将来だと思います。核の脅威、全地球的にすすむ環境破壊……など、全人類的な課題に、私たち一人ひとりはどう立ちむかうのかが問われていると思います。
 こうした入びとの時代感覚に正面からむきあい、すぐれた詩人、作曲家の「共労」もとに創作された混声合唱組曲「地球への帰還」は、私たちに力強いメッセージをとどけてくれる事でしょう。
 いつも、人間の真実のありようを多面的に問いかけ、創造性あふれるうたごえ運動をすすめている関西合唱団の皆さんに心から拍手を送るとともに、90年代のうたごえ運動のリーダー的役割を一層豊かに発揮されることを強く期待するものです。
【日本のうたごえ全国協議会 幹事長 浜島康弘】


全曲初演にあたって作者からのメッセージ

 この組曲は、飽食と飢餓、豊かさと貧しさ、平和と戦争、愛と憎しみ、を共存させつつ、宇宙船「地球号」を思いのままに操ろうとする人類のおごりを洪水前の状況とダブルイメージさせる。オゾン層破壊にシンボルされる環境破壊と核による最終戦争を洪水ととらえ、一隻の宇宙船によって地球を脱出した一人の女性が宇宙空間をさまよった末、地球を再興すべく、ふるさとの星へ帰還するまでを基本的なストーリーラインとする近未来のシミュレーション物語である。
 個と全、人間と宇宙、有限と無限、光と闇、死と再生・・・・といった二極が対立と融合をくりかえしつつ進む時間の海。
 そこにただよっているかにみえる地球の運命が実は私たち人類の営みにかかっているという事実、このことを自覚し、いかに生きるかを問いかけることが、この組曲に託したひそやかな、もくろみである。
【作詩者 片岡輝】


 片岡輝氏の詩は彼の名前ではないが、言葉が光っていてあたたかい。そして自己を厳しく見る。
 この詩はテーマそのものは空間へ広がりながら、目に見えない力で自分の点へ、胸の小さい点の一つに縮まっていくといった多層な構造を持つ所がパーソナルなところである。一方では地球、宇宙と広がりながら、もう一方では個人の中心へ求心的に向かっていくという二つの動きがある所が二重に素晴らしい。
 彼の詩では、「愛」「恋」とか、「絶望」などという言葉が安直ではなく、出るべき時に出ている。したがって詩をみていると自然に構成が出来上がってくる。詩に誘導されて創る。目の前に色が見え、リズム、テンポが文字が並ぶ中で収れん、拡散していく。今、この詩に作曲の衝動を覚え、素晴らしい作曲の予感がしている。
【作曲者 池辺晋一郎】