定期演奏会の紹介

第58回定期音楽会の紹介

 5月の音楽会

演奏日時 1993年5月17日(月)午後7時開演
演奏会場 ザ・シンフォニーホール
指   揮 守屋博之/本並美徳/山本恵造
ピ ア ノ 門万沙子/土肥永津子/山下和子
出   演 関西合唱団/「子どもの十字軍」をうたう合唱団/レガーテ
外山雄三(特別出演)
ス タ ッ フ 一杉忠(舞台監督)

演 奏 曲  1部 母なる故郷                      (詩:入江晃 曲:木下航二 編曲:高平つぐゆき)
日本国憲法第九条                 (曲:外山雄三)
共に生きる町                     (詩:金明植 曲:林光)
ねがい                         (詩:佐藤信 曲:林光)

眠っちゃいけない子守歌              (詩:別役実 曲:池辺晋一郎)
ポプラの歌                       (詩:三浦錦 曲:熊谷賢一)

踊りましょう                      (モラヴィア民謡 編曲:P.エベン)
ウォビチャンカ                     (ポーランド民謡 編曲:ミハイロフ 訳詩:関鑑子)
鐘の音は単調になり響く              (ロシア民謡 編曲:A.スヴェシニコフ 訳詩:合唱団白樺)
ウ・ボイ〜進め若人                 (曲:イバン・ザイツ 訳詩:関鑑子)
小鳥の歌曲                      (曲:T.シギェティニスキ 訳詩:園部三郎)
孔雀は飛んだ                     (曲:コダイ・ゾルタン 訳詩:山口みゆき)

三つのアメリ力の歌                 (編曲:徳備康純)
 DOWN BY THE RIVERSIDE(ダウン バイ ザ リヴァーサイド)
 WHAT A WONDERFUL WORLD(このすばらしき世界)
 WHEN THE SAINTS GO MARCHING IN(聖者が町にやって<る)

        2部 子供の十字軍                    (詩:ベルトルト・ブレヒト 曲:外山雄三)
「忘れっぽい人に」よりV,想像力         (詩:中桐雅夫 曲:外山雄三)
おやすみ                       (詩:デサンカ・マグシモビッチ 曲:外山雄三)

チラシ(表)

ごあいさつ

プログラムより
 本日は、関西合唱団「5月の音楽会」にようこそおいで下さいました。
 私たち関西合唱団は、今年で創立されて45周年になります。
今日の音楽会は45周年記念とは銘打ってはおりませんが、45年の歩みの上に立って次の50周年にむかっての新たな1歩にしようと、出演者一同全力をあげてまいりました。
 とりわけ、関西合唱団の音楽面における充実と前進にとって大きな力と励ましを与えて下さってきた外山雄三先生が、今日の音楽会にも新しい作品を創ってくださり、その上ピアノ伴奏で特別出演していただくことに、私たちは心よりお礼申し上けるものです。
 さて、この45年をむかえる道のりは決して平坦なものではありませんでした。その中で今日まで歩み絶やさず進んでこられたのは、平和を願いよりよい明日をもとめる多くの入々の思いにそって、私たちの音楽を平和の力・生きる力にするためにその音楽をより豊かに魅力あるものにし、歌うことの喜びをひろげていく様々な努力があったからです。
 いま私たちの回りの動きは、うたごえの飛躍的前進をもとめています。二度と戦争への道を繰り返さないと世界にむかって誓った憲法に、「時代に合わない、古くなった」などの攻撃がさかんにかけられ、スキあれば変えてしまおうとする企みが強まっています。
「子供の十字軍」をはじめとする今日の音楽会のプログラムは、こうした動きに対する私たちの気持ちをうたいあげるものです。
 今日の音楽会にたいするご意見をお聞かせくださり、又これからも関西合唱団への暖かいご支援をお願い申し上げご挨拶とさせていただきます。
5月17日 【関西合唱団団長 西恒人】

メッセージ

プログラムより
 うたごえ運動は今年45周年目を迎えた。関西合唱団も創立45周年目のはずである。
 眼を世界に転じると、痛ましい事件が相次ぎ「共に生きる町」はどこにあるのかと考えないではいられない。
 しかし、今年の五月の音楽会のチラシを見る限りには、○○周年とも、音楽会の内容を主張するタイトルも何もない。そのかわり、プログラムの内容を見ただけで、今年の音楽会にとりくむ関西合唱団の並々ならぬ意欲が伝わって<る。ひたすら音楽そのもので、世界を、くらしの真実の思いをうたおうとする意図が僕には強く感じるだけに、当夜がとても楽しみである。
 「平和と音楽はふたごの兄弟のようなものだ」といった有名なチェリストがいたが、創立以来45年間、その事を文字通りくる日もくる日も実践してきた関西合唱団の皆さんの努力と情熱に心からの敬意を表し、全国の仲間を代表しての連帯のメッセージとする。
【日本のうたごえ全国協議会 幹事長 浜島康弘】

 敗戦の年は中学2年生であったという自分の体験もかかわりがあるだろうが、戦争や、圧制や、暴力や、差別や、不公正や、………を考えるとき、まっさきに気がかりなのは子どもたちのことである。だからと言って、何か少しでも子どもたちの役に立つようなことが出来るわけではないのは口惜しく、なさけない限りであるが、子どもたちの基本的な権利を守ることについて、子どもたちの未来に何を残していけるかについて、いま、真険に考えなければ入類に明日はない、と思っている。
 中桐雅夫さんの作品に音楽をつけるのは初めてだが、T「白いハンカチ」、U「母子草」、V「想像力」、W「忘れっぽい入に」、という4曲から成る混合合唱とピアノの、一種の組曲とも言える『忘れっぽい人に』を、この秋には是非、関西合唱団に演奏して頂きたいと考えているので、先づ、V「想像力」を作曲してお目にかけることにした。私がもっとも信頼する指揮者、守屋博之さんと、常に積極的な活気にみちて、しかも緻密さを失わない関西合唱団に演奏して頂けること、その上、今日は協演もさせて頂けること、この上ないしあわせである。
【外山雄三】

曲 目 解 説

プログラムより
●母なるふるさと
うたごえ運動初期1950年代の愛唱歌。作曲者の木下航二は当時日比谷高校の先生。他に「原爆許すまじ」などの作品もある。高平つぐゆきの編曲で、現代によみがえった。
●日本国憲法第九条
外山雄三氏が、1983年に関西合唱団のために書いた混声合唱のための組曲「そして、一輪の花のほかは…」のなかにある。
●共に生きる町
名古屋の市民運動の力によって生まれた、外山雄三・林光両氏の共作による交響曲「5月の歌」のなかの一曲。この交響曲は1987年の5月3日憲法記念日に名古屋で初演された。
●ねがい
1983年2月、当時ポーランドで自由と民主主義のために活動していた「連帯」を支援する「ポーランド緊急支援コンサート」で発表された。混声合唱版は、1985年3月、岩城宏之指揮・東京混声合唱団が初演。作曲者は、この詩について次のように言っている。“この詩には、気づかずに「ねがい」を踏んづける若者が出てくる。「ねがう」のも、「ねがいを踏んづけるのも」、ひとしく「わたしたち」である。
それゆえに、この詩はリアリティを持つ。”●眠っちゃいけない子守歌
「六つの子守歌」のなかの一曲で1985年に作曲された。反戦の思いをこめて作られたものだという。
●ポプラの歌
1975年に独唱曲として初演。従来の叙情的な女声合唱によくある女性観ではなく、“女性は本来たくましいものだ”という作曲者の主張が表現されている。
●踊りましょう
この曲もうたごえ運動1950年代の愛唱歌で、当時は中央合唱団の振り付けつきの演奏が新鮮だった。編曲者のピーター・エベンは、現代チェコを代表する作曲家。
●ウォビチャンカ
ポーランドの中央部ウォビッチ地方に昔から伝わる踊りつきの民謡を合唱に編曲した。歌詞にでている「花かずら」は、未婚の乙女が頭につける。
●鐘の音は単調になり響く
ロシア民謡の代表的な歌。ロシアの多くの合唱団がさまざまな編曲で歌っている。今日は四コーラスのなかに二種類の編曲をとりいれた。
●ウ・ボイ
今から74年前、1919年(大正8年)に、関西学院グリーグラブのメンバーたちが神戸にたちよったチェコの軍人たちから教わったということで、チェコ民謡と伝えられてきたが、本当はクロアチアの作曲家イヴァン・ザイツ(1832-1914)の合唱曲。「ウ・ボイ」は、「戦いへ」の意味。民族独立を象徴する歌として今もよくうたわれている。
●小鳥の歌>
国立の舞踊アンサンブル「マゾフシェ」の創始者・指導者であるシギェティニスキがポーランドの民族詩に作曲した。甘く美しい旋律にのせてうたう悲恋の歌だが、第二次大戦で人口の五分の一を亡くしたポーランドの入達がこの歌をうたうとき、平和への切々たる思いがこめられていた。
●孔雀は飛んだ
コダイ作曲による合唱曲。マジャール(ハンガリー)の自由と民族独立への強い願いを、民族の伝統的な旋律にのせてうたう。かつては、演奏を禁じられていた。
●WHEN THE SAINTS GO MARCHING IN
アメリカ南部の黒人たちがうたっていた古い歌。この歌の“聖者”は、聖職の偉い人ではなく、キリスト教の信者をさす。ニューオルリンズの黒人の葬式パレードで盛んに歌われ、やがてニューオルリンズ・ジャズのスタンダードになった。
●このすばらしき世界
1967年秋、ルイ・アームストロングがうたってヒットした。美しい大自然、親しい友達との語らい、愛情、育ってい<子供たち、この世界は何とすばらしいだろうというメッセージ・ソング。
●DOWN BY THE RIVERSIDE
よく知られているニグロ・スピリチュアルのひとつ。アメリ力の公民権運動や、平和運動のなかで盛んに歌われた。
●子供の十字軍
ドイツの劇作家・詩人であるベルトルト・ブレヒト(1898〜1956)は、戯曲「三文オペラ」「ガリレイの生涯」や、詩作「家庭用説教集」などで知られる。彼の生涯と作品を貫いているのは、戦争やファシズムに対する一貫した闘争である。
ナチスによる1939年のポーランド侵略に巻き込まれた子供たちが、平和を求めてさまよい続け、遂に悲劇的な結末をむかえるまでをえがいた「子供の十字軍」の詩は四行詩によるバラーデ(語りうた)のかたちで書かれており、1940年に刊行された「暦物語」に収められている。
外山雄三氏の音楽では、何回もくりかえされる象徴的なピアノの行進のリズムにのって、さまよい歩く子供たちのさまざまなすがたが淡々とうたわれる。一箇所だけワルツになる「愛もあった」というところの美しさはたとえようもない。
曲のなかで、平和な土地を求めて歩く子供たちのすがたに、世界中の人たちが平和を求めて大行進するすがたが重なる。
この曲は、1971年5月13日に櫻井武雄指揮・第一合唱団によって初演された。
●「忘れっぽい人に」より、V「想像力」
中桐雅夫の詩集から四つを選んで組曲を作る予定である。今日その第三曲めが初演される。「子供の十字軍」「おやすみ」とともにうたわれるとき、ひとつの強力なメッセージが生まれる。
●おやすみ
セルビア生まれの女性詩人、デサンカ・マクシモビッチ(1898〜)のこの詩は、朝日新聞1993年元亘号にのっていた。「こどものねむりのなかにだけ、星のきらめく夢がある。世界はおしだまっているばかり。」とうたう内容の痛切さは、かぎりなく美しく静かな曲想のなかで一層わたしたちの胸に迫る。1993年3月27日、作曲者自身のピアノ、守屋薄之指揮・三多摩青年合唱団により初演された。
【関西合唱団企画委員会】